孤独な死体 上野正彦 本の紹介
*眠れぬ夜に本の紹介。
「おかあさんといきます」
ノートの切れ端には、あどけない子どもの文字で、はっきりとこう書かれていた。
それは母子心中の現場で、30代の母親と小学生の男の子が書いた遺書がそれぞれ
一枚ずつ残されていた。
母親や父親と年端のいかない子どもの心中事件では普通、大人は自殺、子供は他殺
として扱われる。なぜなら、子どもは思いつめた父母らの手にかかって命を絶たれて
いるからだ。1960年代に起きたこの事件では、窓枠やドアの隙間をガムテープで
目張りし、締め切った部屋でガスの元栓を開け、母親は子どもを抱き抱えるように
して亡くなっていた。一酸化炭素中毒であった。
心中には、親が子供の首を絞め、自分は首をつって死ぬなどというケースもある。
親と子に限らず、片方がもう片方を殺して死の道連れにするような心中事件を
無理心中という。私の見てきた親子心中(その多くは母子心中であった)は、
ほとんどが無理心中だった。そういう訳でこの事件も、子供は他殺体として検死
を行うつもりだったのだ。ところが、警察官は次のように言ったのである。
「遺書がありますから、子供も自殺ですね」・・・
(本書より抜粋)
この子供は、自分で死を選んだのだろうか。「おかあさんといきます」と
紙切れに書いただけで、なにも検証せず自殺として終わらせてしまうのか。
自分の死は恐れであり、重大なことであり、絶対のものであるが、他人の死は
軽くて世間話のネタぐらいでしかない、現場の警察官は仕事として迅速に処理
するだけのことである。人間は死を恐れるあまり他者の死を拒絶し関りを持ち
たくないと、他人の死を軽く扱い平静を装うが、死体は語っている
「私はこのように死んだ」「私は、こん事をされて殺された」と。
今までの検死に疑問を持ち、死んだ人間と真正面から向き合った一人の
監察医の思いが詰まった一冊の本です。この本を読んでみませんか。
*上野正彦(うえの まさひこ)略歴
・茨城県出身 1929年生まれ
・東邦医科大学卒業 1954年
・東京都監察医務官 1959年
・東京都監察医務官 退官 1989年
(目次)
第1章:子供の自殺は他殺ではないか
・権威に隠ぺいされたいじめ ・他
第2章:家の中で死んでいく子どもたち
・虐待が見抜けない医師が多いのはなぜか ・他
第3章:高齢者たちの悲惨な最期
・自殺者の約4割が高齢者 ・他
第4章:過労死という見えない死因
・職場ぐるみの悲しいウソ ・他
第5章:監察医が見抜いた殺人、見抜けなかった殺人
・腐敗臭に関する私的な実験 ・他
第6章:予防医学としての法医学
・監察医制度はマッカーサーの置き土産 ・他
書名:孤独な死体(ポプラ新書)
著者:上野正彦
出版:株式会社 ポプラ社
発行:2014年02月05日 第1刷発行
定価:780円+税
*184ページ、厚さ1センチの紙の本です。
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2023年07月01日(土曜日)
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